セミソリッドギターとは

2014年10月30日

セミソリッドギターの定義

セミソリッドギターという言葉、なかなか耳慣れないですよね。

どんなものかあまりピンとこない方も多いのではないでしょうか。

実はこれといって『 この形のギターはセミソリッド! 』というモデルというか、決まりはありません。

というか、セミソリッドギターは構造上外観では全く判別がつかないのです。

ボディーにチェンバード加工がなされているギターを、セミソリドッギターと呼びます。

もちろん、ベースの場合はセミソリッドベースですね。(あまり見かけませんが)

 

チェンバード加工とは

2008レスポールスタンダード

チェンバード加工の一例。くり抜く形状や場所はメーカーやモデルによってまちまちです。

チェンバード加工とは、製造途中でボディー材をくり抜いて空洞を造り、ホロウギターと化す加工です。

と言うと、『 それって前回のセミアコと何が違うの? 』という疑問が湧くでしょう。

チェンバード加工によるソリッドギターとセミアコの違い

確かにボディー内部に空洞があると言う意味では、両者は同じです。

が、セミソリッドギターには空洞内部で共鳴した音の出口となるサウンドホールがありません。

これがセミアコとセミソリッドギターを分ける決定的な違いです。

セミアコもセミソリッドも、ベースとなるボディー材をルーターという機械を使って画像の様に穴を掘り(上の画像参照)、その上から別の材を貼りあわせてフタをして中に空洞のあるボディーを造ります。

が、セミアコの場合はこのベース材かフタ材のどちらかにホール(fホールなど)の形で穴を開けてから接着することで、ホールがあるアコースティック構造となるのに対し、セミソリッドギターはフタ材にホールとなる穴は開けず、そのまま空洞を閉じるようにフタをします。

逆に言えば、上の画像のギターにfホール付きの材でフタをした場合、そのギターはセミアコということになります。

セミソリッドボディーはホールがないので、外観上ではボディー内に空洞があるかどうかは全くわかりません。

そのため『 セミソリッドギターといえばこの形! 』 と連想されることもあまりないのでしょう。

メーカーが特にそうとは謳わずに、セミソリッドになっているモデルもあったりします。

実際に知るにはボディーを割ってみるか、レントゲンや空港で見かけるようなX線の機械にでも通してみるか……

いずれにしてもちょっと大げさですね。

中の空洞がある程度大きい場合はコンコンと叩いてみればわかったりもしますけどね。

あなたの愛機も、実はボディー内はスカスカの空洞になった、セミソリッド構造かもしれませんよ。

セミソリッドギターのサウンド

構造上はホロウギターとも言えますが、サウンドホールがないのでセミアコやフルアコの様にハウリングが起こりやすいということさほどなく、使い勝手はソリッドギターとほぼ変わりません。

セミソリッド構造によるサウンドへの影響は空洞の場所や大きさで異なりますが、基本的には既存のソリッドギターを基にボディー内部を空洞化するので、基本的なサウンドは基になったソリッドギターに準じます。

但し、これはこの後のデメリットの項目でも解説しますが、チェンバード加工でくり抜いた分によりボディーの重量が減りますので、当然その分サウンドには変化が現れます。

基本的にギターやベースは質量があればあるほど低音が出やすいので、セミソリッドギターは同じ形状のソリッドギターに比べ、程度の違いはあれ低音が出づらくなり、軽めのサウンドになる傾向があります。

セミソリッドギターのメリットとデメリット

メリット1 音響特性を調整することが出来る。

基本的に工程が少ない方が、製作側としては手間と時間=コストが少なくて済みます。

それでもわざわざ楽器に何かの加工をする時は、大抵楽器にとって大事な要素である サウンド か 演奏性のどちらかを変えるため。

チェンバード加工を行うと、ボディー材の質量が変わりますから、当然、音が変わります。

しかも、削りだす部位やその量によって音質の変化をコントロールできるので、基となるギターの形状をそのままに任意にサウンドキャラクターを調整できるということになります。

通常のソリッドボディーの場合、ボディーの音響特性は素材となる木材の比重などの特性と、サイズ・形状に頼るしかありません。

これでは、同じデザインのギターで同じ種類の木材を使うと、多少の個体差はあれみな同じような音になってしまいます。

もちろん取り付けるパーツでも音は変わりますが、最近ではブリッジやパーツ類の進化もある程度停滞気味。

ある意味、マンネリ化しています。

しかし、こうして緩やかに変化はしていますが、同時にギター業界では新しいものというのは敬遠されがちな面があります。

一度定着してしまえばいいのですが、消費者に 『 このモデルはダメ 』 『 あのパーツは使えない 』 などとなってしまうと、もうてんでダメ、全然売れずにそのまま製造中止、ということもよくある話です。

特に、全く新しいデザインのギターというのはなかなか定着しません。

(それだけ、ストラトキャスターやレスポールなど伝統的なモデルの完成度が高いということでもありますが)

そこで考案されたのが、ボディー内部に空洞を造り、デザインはそのままで音響特性を調整してやる、ということです。

これによって同じ見た目のギターでも、そのメーカーが狙っているサウンドに整えてやって個性を出し、差別化することが出来るのです。

しかも、どこをどうくり抜いたかは外観上では全くわからないため、他社が全く同じチェンバード加工をコピーすることが容易ではありません。

通常のソリッドギターとは違うサウンドを出すことが出来るということが、セミソリッドギターの最大の特徴でしょう。

メリットその2 ボディーの軽量化

当たり前のことですが、ボディー材をくり抜いて中に空洞を造るので、その分だけ質量が減り、楽器本体の重量が軽くなるのがメリットの一つ。

楽器そのものが軽くなるので演奏中の取り回しや持ち運びが楽になるというメリットがあります。

メリットその1で挙げた音響特性の調整うんぬんよりも、こちらの軽量化を目的にしてチェンバード加工がなされるモデルも多いようです。

デメリット1 低音が出づらくなり、サウンドが軽くなる。

これは軽量化による影響が大きいポイントです。

ギターやベースに限らず楽器と言うのは、一般的な傾向としてボディーの質量が減り軽くなるほど低音が出にくくなるのです。

これによって、サウンドが軽く感じるようになる場合があります。

ただ、これは結局は音が変わるということ。

あまりいいことばかり挙げてもうさんくさくなりそうなのであえてデメリットとして挙げましたが、それがメリットになるかデメリットになるかは受け取り方次第で変わります。

逆に言えば、低音が出過ぎてしまうようなサイズ・形状のボディーと材の組み合わせの場合は、中をくり抜くことによって改善されるということにもなります。

この場合はデメリットではなくメリット1で取りあげた 『 音を調整できる 』 という、メリットとしても解釈できます。

楽器が元々持つ音の良し悪しと言うのは最終的には演奏者自身がどのように感じるか、という感覚的なものですので、表裏一体ですね。

※ボディー形状・構造や、くり抜く量や部位によっても影響の度合いは異なります。

デメリット2 製造コスト増

セミソリッドギターを造る際のチェンバード加工には、少なくとも

1.ボディーをくり抜く。(空洞にする分、木材に溝を掘る)

2.フタとなる材とくり抜いた材を貼り合わせ、空洞を閉じる。

という二つの工程が必須です。

元々トップ材とバック材を貼り合わせるボディーを持つモデルであればくり抜く作業が増えるだけで済みますが、どちらにしても工程が増える=手間と時間がかかる=コストがかかる、ということです。

仕様材など条件が同じであれば、どう見積もってもソリッドボディーのギターに比べ製造コストが増してしまうのです。

くり抜く場所や量によって音に影響が出るということはメリット1でも挙げた通り。

しかし、その研究費もかかってしまうでしょう。

実はチェンバード加工自体はそこまで成熟した技術ではなく、色々なくり抜き方を試したという職人も多くはいませんし、当然シミューレーターなんてハイテクなものも存在していません。

チェンバード加工によるサウンドへの影響を調べるためには、一度ボディーを貼り合わせて、サウンドを確認したらボディーの接着面をはがして更に掘ったり、既に掘ってある部分を埋めなおしたり……と試行錯誤で臨むか、違うパターンのチェンバード加工を施したサンプルを大量に製作するか……

いずれにしても研究・開発・製造には通常のソリッドギターに比べコストがかかることは容易に想像ができます。

そのため、セミソリッドボディーの楽器の価格はソリッドボディーの同クラスのものに比べ相場が高額になることがあります。

セミソリッドギターまとめ

・セミソリッドギターとは、ボディー内に空洞はあるが、出口となるホールがない構造を言う。

・くり抜く量や場所によって音色の調整ができると言う点と、くり抜いた分だけ軽量化されるというメリットがある。

・同モデルのくり抜いていない状態に比べ、音色的には低音が出づらくなり音が軽くなる傾向がある。

どういう理由か、近頃は何かと低音重視な方が多いように感じます。へヴィーなロックサウンドが好まれるからでしょうか。

軽いという言い方が悪いのかもしれませんが、言い換えれば軽快、という風にも捉えられます。

低音の減少も削る量で調整可能ですし、むしろ音がへヴィー過ぎて使えないからバランスを取るためにセミソリッド化するようなモデルもあるはずです。

セミソリッドをあまり好かない方も多いのですが、その軽快さを活かすジャンルの演奏者に勧められる、店員としてはそれくらいの見識があるとベストですね。